作家と演奏家

「今でも自分は小さな部屋でアコースティックギターを持って、何かを告白しながら自分の物語を観客に向けて歌っているという気持ちがあります。」

先日、ノーベル文学賞を受賞されたカズオイシグロさん。数年前、某雑誌のインタビューにこう答えていたそうですね。なんとも、音楽を演ったことのある人間なら、共感するところが多いのではないでしょうか。演奏家はその舞台が小さくても大きくても、お客様に向けて作曲家や自分の世界観(=物語)を表現する(=語りかける)ことが醍醐味。

「実は小説を書くうえでとても役に立っているのが、失敗に終わったシンガーソングライターとしての経験です。」

イシグロさん、演奏家として活動していた時があったんですよね。それがベースになっていると。確かに彼の作品には、演奏家なら誰でも頷いてしまう描写があちこちで見られてとってもおもしろいです。たとえば「夜想曲集」の1作目「老歌手」では、主人公をトラ(演奏家としてどこにも属さないでフリーで仕事する人のこと、作品の中ではジプシーと表現)として設定し、フリーだからこそ遭遇するハプニングやその時々の機微なんかをうまく描いています。こういうのは「人前で演奏する」というイベントを経験したからこそ。

演奏家も作家さんと同じように、その曲に歌詞がついていようといまいと、ひとつの物語を聴かせられるような、そんな演奏を心がけたいものです。

イシグロさんが物語を描かれる時は、演奏家がステージ上で行なっていることと同じ感覚なんだ!と思ったらやけに嬉しく、そして勝手に身近に感じている今日この頃。。現在、全作品を制覇したい気持ちに駆られております。(笑)